非日常空間での過去への探求|小説『黒と茶の幻想』
あらすじ
太古の森をいだく島へ―学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。(Amazonより)
『黒と茶の幻想』は、『三月は深き紅の淵を』と緩やかに関連する作品。『三月は深き紅の淵を』内の作中作である4部作「三月は深き紅の淵を」のうちの一部をなすものだ。
とはいえ、『三月は…』を読むことで『黒と…』の中で残されたナゾが明らかになること、あるいはその逆、とかはないので、『三月は…』を先に読んでいた者からすると「ようやく読んでやったぜ」というかすかな自己満足を得られるくらいなので、『三月は…』を読んでいなくても全く支障はない。
『黒と茶の幻想』のストーリーは、学生時代からの友人4人が、屋久島旅行に出かけてそれぞれが持ち寄った「美しい謎」を解き明かそう、というもの。
4人が4人とも、タイプは違えど見目麗しく、優秀でそれなりの社会的地位についている30代後半の男女。とはいえやっぱりみな「大人」だから、それぞれに経てきた人生には鬱屈とした闇や屈折はある。
しかも4人のうち2人は元恋人同士という…気まずいながらも、同じシチュエーションに居合わせたら、心のどこかで何か起きることを期待せずにはいられない。
彼ら同士の会話、そしてそれぞれの心の中で解き明かされていく謎の数々と、屋久島の鬱蒼とした森の描写が相まって、どこか湿度の高い作品。
「謎」の中には、ミステリらしく、行方不明になっている4人の共通の知人の話であったり、親戚のおばさんがなぜか毎日窓から石を落とす話など、大小さまざまなものがあるが、物語の核になるのは、過去への探求により、今、「大人」となった自分がどうやって形作られたのかを、それぞれが自己の中でひも解く過程であろうと思う。
4つの部からなり、主要人物4人それぞれの視点から語られるのだが、第3部で冒頭から引っ張られてきた大きな謎がひと段落してしまい、少ししりすぼみになったかも。
上下作で描くほど複雑に事象が絡み合っているかというとそうでもなく、それぞれの独白や回想が多くを占めるため、ちょい途中で疲れた。
けど、4人それぞれからみた森の印象が、まさにそれぞれの心を投影した鏡のようで印象的だった。
彼らと同じくらいの年代になり、家庭を持ってからまた読んでみたい。
お気に入り度
★★★☆☆
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同じく『三月は…』と緩くリンクしている作品。
優理が芝居で行った場面が出てくる。
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