手書き文字の雄弁さ|小説『ツバキ文具店』
あらすじ
ラブレター、絶縁状、天国からの手紙…。鎌倉で代書屋を営む鳩子の元には、今日も風変わりな依頼が舞い込む。伝えられなかった大切な人への想い。あなたに代わって、お届けします。(Amazonより)
小川糸さんによる、店を切り盛りする女性を描いた作品は
どれをとっても私にとってツボだ。
今回も「くう~~っ!またいいところを突いてくる!」と思わされた。
今回は鎌倉を舞台にした代筆屋での物語。
主人公の鳩子は、依頼人の話から彼ら・彼女らの想いをくみ取り、
どのような方法が最も依頼主にとってベストなのかを考え、代筆する。
代筆とは文面だけではなく、紙・筆・封筒・切手と、
手紙を構成する全てのものに想いを託す。
何が一番しびれるかというと、
鳩子による手書きの手紙そのものが載せられていることだ。
もちろん文庫本として(もしかすると単行本だと少し違うのかな)
の限界はあって、コピーが載せられているわけだが、
それぞれの依頼主が乗り移ったかのような筆跡・筆圧でつづられる文章は
何とも言えない凄みと深みがある。
この本に出てくる手紙の中で私が一番好きなのは、
主人公鳩子の祖母による一連の手紙だ。
達筆であるはずの祖母の文字も、
その時々の心の揺れにより、文字も変化する。
人の手による文字とは、こんなにも雄弁なのかと息を飲んだ。
お気に入り度
★★★★★
こちらもおすすめ
東京の下町・谷中を舞台にした、アンティーク着物店を営む女性の話。
お客さんとのやり取りというより、主人公の恋と季節感の描写が重視されている。
こちらもかなりお気に入り。
↓感想記事。
辻仁成さんによる、タイトルもズバリ『代筆屋』。
売れない小説家が代筆業を始める話。
短編集で、シャープにまとまっているんだけど、
一つ一つの話が深い。
さすが辻仁成さん!という感じ。
…といっても、『冷静と情熱のあいだ』くらいしか他は読んだことがないけど…