”今”に悩む大人も優しく包み込むレトロな町|小説『つむじ風食堂の夜』
あらすじ
懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。(Amazonより)
日本のどこかにある「月舟町」に住む人々の話。主人公は、雨降りの研究の傍ら文章を書く仕事をしている「雨降り先生」。
帽子屋さん、豆腐屋さん、本屋さん…と、出てくる顔触れはいつも同じ、集まる場所もいつものつむじ風食堂。ひとさじの「ここじゃない感」を抱えながらも、”今”に足をつけて暮らす大人たちの日々が綴られる。
「月舟町」という小さな箱庭を愛でているかのような、何とも言えないちょうどいいサイズ感の物語。
長編小説だけど一つ一つの章はある程度独立しているし、取り上げられるエピソードもとりとめもないものなので、肩ひじ張らずに読める。
例えば、小さなころに手品師の父親と一緒に訪れた喫茶店の思い出の話、唐辛子にまつわる世界中の伝説を「楽しい感じ」で、と依頼された時の話、などなど…。
短くてさっぱりとした文章だけど、なんだかとてもあったかくて深みを感じる。
また、食べ物の描写は多くはないんだけど、白くて「本当に美しい」皿に盛りつけられたクロケットは何とも美味しそう。立ち上る湯気や香り、ナイフを入れた瞬間の音まで聞こえてきそうだ。
お気に入り度
★★★★★
こちらもおすすめ
箱庭的世界感、といえばこれ。
児童書だが、今でも時折無性に読みたくなる。
挿絵もとってもかわいくて、それぞれのキャラクターの家の構造まで描かれている。