寓話のようなミステリ|小説『オーデュボンの祈り』
あらすじ
コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島"には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?(Amazonより)
伊坂幸太郎のデビュー作であるが、ひょうひょうとしたユーモアとウィットのある会話、散らばったピースをきちんと拾い上げてしっかりはめ合わせて最後には美しい絵として仕上げてくれるし、振り切った暴力や悪へは最後には必ず天罰が下るなど、すでに十分といっていいほど伊坂幸太郎感があふれている。
本作は、江戸時代以来鎖国している、仙台沖にある誰も知らない離島が舞台。未来を見通すしゃべるカカシや、詩を愛する殺人を許された男など個性がありすぎるキャラクターが登場し、それらも島民には普通の生活の一部として認識されている。このおとぎ話のような舞台設定は、爽やかな読後感をさらに高めてくれてとても相性が良かった。
未来を見通すカカシはなかなか未来について教えてくれないのだけど、それでも彼が教えてくれたこととその理由は、じんわりと彼の150年の人生(カカシ生)の孤独と、哲学と、愛情を物語るようで心に沁みた。
また、個人的に好きだったのは、彼の中のルール(そしてそれはおそらく多くの一般人と割と近しい)により拳銃による殺人を許された男の名前が「桜」であり、彼が詩と花を愛する人間であるということ。
うまく言語化できないが、彼のような、善と悪のはざまというか、異なる次元にあるような存在は、なぜか人間にとっての一つの救いであるような気がする。
お気に入り度
★★★★★
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伊坂幸太郎作品はどれも好きなのだけど、特におすすめの作品。