美味しいパンと、コーヒーと、月浦の月をいただきに|小説『しあわせのパン』
あらすじ
北海道洞爺湖畔の静かな町・月浦に、りえさんと水縞くんの営むパンカフェ「マーニ」があった。実らぬ恋に未練する女性・香織、出ていった母への思慕から父親を避けるようになった少女・未久、生きる希望を失った老夫婦・史生とアヤ……さまざまな悩みを抱えた人たちが、「マーニ」を訪れる。彼らを優しく迎えるのは、りえさんと水縞くんが心を込めて作る温かなパンと手料理、そして一杯の珈琲だった。(Amazonより)
なんといっても、風景と食事の描写がずば抜けて好み。
たまに平日に休みが取れた時にはふらっと旅行に出る。大概目立った観光地や買い物に行く訳でもなく、ひたすら景色を眺め、たまにカフェに入ってまったりして、美味しいものを食べ、ゆっくりと寝る。
私にとっての理想の休みがそこにあった。
カフェ「マーニ」のオーナーであるりえさん・水縞くん夫婦は、ちょうど良い距離感で客を迎え入れてくれる。
りえさんが作ってくれるコーヒーや地物を使った料理と、水縞くんが作る焼き立てパンは、立ち上がる湯気と香りまで感じられるくらいに瑞々しく描かれている。
そして月浦に広がる草原と、湖と、夜空に浮かぶ月は、どれほど爽やかで美しいのだろうと思う。
そして、それぞれに悩みや悲しみを抱えてカフェを訪れる客ごとにエピソードが紡がれていく。
一番好きなのは、水縞くんとりえさんのお話。二人が出会って、水縞くんがりえさんにほぼ一目惚れして、ほぼ勢いで月浦で暮らし始めて、りえさんがじょじょに心を開き始めるまでが水縞くんの日記を元に綴られる。
まだりえさんの心は自分の元にないとわかっていながら、優しく暖かく見守り、でもりえさんが崩れ落ちてしまいそうな時は察して手を差し伸べる。
なぜりえさんがそれほどまでに傷ついているのか、なぜ月浦行きを決意したのか、最後にりえさんが書いている手紙は誰宛なのか、小説でも映画でも明かされない部分もあるけど、個人的にはそれがちょうど良い塩梅。
人の心が動くことって、明確な理屈とか言葉で表せないことの方が多い。
お気に入り度
★★★★★
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同じ三島由紀子さんの本。
「しあわせのパン」も「ぶどうのなみだ」も、映画より小説の方が好き。
小川糸さんの小説も食べ物と風景の描写がめっちゃ好み。
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喋々喃々の感想