優しさが大切な人を傷つける|小説『きらきらひかる』
アル中で躁鬱の症状を抱える妻・笑子と、ゲイの夫・睦月の話。
笑子と睦月はお見合いで出会い、すぐに互いに「スネに傷がある」ことに気づき、利害関係が一致した2人は結婚することになる。
2人は夜を共に過ごしたことはなく、お互いに恋人を作っても良いという約束をしていた。現に、睦月には幼なじみでもある紺という恋人がいる。
だけど、笑子と睦月はとても互いを大切に思っている。
そんな、さっぱりとしてちょうど良さそうな関係であっても、笑子には睦月の優しさがつらく、「普通の幸せ」の型にはめようとする家族や友人、元恋人の存在が苦しい。
睦月は、笑子にも紺にも、家族にも誠実で素直であろうとすればするほど、大切なパートナーたちを苦しめる。
笑子の「紺が睦月の赤ちゃんを産めたらいいのに」という言葉が、彼女の睦月への愛と、自分は紺には勝てないという悲しみと、子供を産むという「普通」の幸せと自分たちの絶対的な距離への絶望が相まって、この物語を象徴しているように感じた。
笑子と睦月の心の機微が丁寧に描写されて、ひとを愛するということが透明なレースのように読んでいる者を包み込んでくれるような作品。