自分ってダメだなぁ、って辛くなった時に|小説『働かないの』
40代にして仕事を辞め、今後の人生は誰にも振り回されずに生きるんだ!と、働かずに生きると決めたキョウコ。
貯金生活を始めて約3年が過ぎたキョウコの毎日は、きわめて穏やかで平凡だ。
だけどそんなキョウコの暮らしに、2つの新たな風が吹いた。
一つは、ずっと空室になっていた部屋に、スタイル抜群の美女が引っ越してきたこと。
もう一つは、カフェで偶然居合わせたおしゃれマダムたちに触発されて、刺繍で大作タペストリーを作り上げるという挑戦を始めたこと。
有り余る時間を趣味に費やすことができるなんて、とんだ贅沢の極みだ。
…のはずが、いつのまにか、
こんなに頑張ってもこれだけしか進まないなんて…
マダムたちはあんなに上手にできているのに、私のは全然ダメ…
と、知らず知らず自分のできていないところ、ダメなところにばかり思考が言ってしまい全然楽しそうじゃないのだ。
傍から見れば、俗世のしがらみから解き放たれ、気の赴くままに穏やかな生活を営み、つつましい暮らしさえ受け入れれば何の悩みもないようにも感じられるはずなのに、
いつのまにか自分で自分を苦しめているキョウコ。
人間って思考の枠に囚われて生きているんだなぁということが、これでもかというくらい自由な条件下に主人公を置いているからこそ浮き彫りになる。
そんなキョウコに苦笑いしつつ、
ちょうど私自身が自己肯定感が低いタイミングに読めたことはとても幸運だった。
今の苦しさは人と自分を比べたり、できないことばかりに目を向けている視野の狭さからきていることに気づくことができて、少し心が軽くなった。
また、美しいタペストリーの描写と、れんげ荘にやってきた新たな住人がもたらす、爽やかでそれでいて華やかな存在感は、ともすれば地味になりすぎるキョウコの暮らしにひと添えの彩りを加えてくれる。
あらすじ
こんな私に親切にしてくれてありがとう――四十八歳になったキョウコは、まだ「れんげ荘」に住んでいた。相変わらず貯金生活者で、月々十万円の生活費で暮らしている。普段は散歩に読書に刺繍、そして時々住人のクマガイさんらとおしゃべり――そんな中、「れんげ荘」にスタイル抜群の若い女性がリヤカーを引いてやってきた!悩みも色々あるけれど、おだやかに流れる時を愛おしみながら、ささやかな幸せを大切に生きる、ロングセラー「れんげ荘」待望の第二弾。
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れんげ荘シリーズ第1弾。
キョウコがこれでもかというくらい働き詰めてからきっぱりと辞めるまでの心境や、貯金生活始まってすぐのそわそわした心持ち、れんげ荘やその住民たちとの出会いが描かれている。