適当さに案外救われたりする|小説『強運の持ち主』
主人公は、ショッピングセンターの片隅で、ルイーズ吉田として占いを営む元OLの吉田幸子。
吉田幸子の言うことには信憑性がない、ということでルイーズ吉田という名前を師匠のジュリエ青柳から授かったそうだが、どっちかというと吉田幸子に占ってもらいたいと思うのは私だけだろうか。
占いにやってくるお客とのやりとりをオムニバス形式で語っていく感じだけど、冒頭数ページのジュリエ青柳の言葉が1番いかしてる。
「占いは、結局適当なことを言って、きた人の背中を押してあげるのが仕事」
「三千円の価値をどうつけるかはあなた次第。大事なことは、正しく占うことじゃなくて、相手の背中を押すことだから」
この言葉をきっかけに、吉田(呼称はルイーズがいいかと思ったがあえて吉田)はきちんと計算して導き出した、本に書かれている答えではなく、目の前にいるお客の話し方や容姿に合わせて判断するようになる。
これってすげー雑なようで、実はめちゃくちゃ大事なことだと思う。相手に、ひいては自分に正直に向き合っている。
何か選択に迫られた時、「正しい選択は何か」を知るために色々情報を集めたり、自分にとってのメリットデメリット、リスクは、リターンは…
なんて、考えに考えて積み重ねた選択の上に成り立っている今のはずなのに、なんかしっくりこないってことも往々にしてある。
正しさって、最後突き詰めていくと、自分が心底しっくりきてるかどうかなんだよなぁ
…占い、行ってみるか…
あらすじ
元OLが営業の仕事で鍛えた話術を活かし、ルイーズ吉田という名前の占い師に転身。ショッピングセンターの片隅で、悩みを抱える人の背中を押す。父と母のどちらを選ぶべき?という小学生男子や、占いが何度外れても訪れる女子高生、物事のおしまいが見えるという青年…。じんわり優しく温かい著者の世界が詰まった一冊。