人生は伏線だらけ|ノンフィクション『バッタを倒しにアフリカへ』
いや~面白かった。研究の楽しさ・ワクワクと、現実的な問題(主に就活)がめちゃくちゃリアルに描かれている。
基本的にやっていることはバッタストーキングであるが、バッタの生態(時々他の昆虫に浮気するが)にまつわる仮説の見つけ方・実験プランの立て方・検証の仕方も非常に分かりやすく解説されていて、筆者のワクワクを追体験できる。
また、国際問題ともなっているバッタによる食料被害への貢献につながるという大義名分が、この研究の一つの大きなスパイスともなっており、個人的なシュミ活動にとどまらないダイナミックさがプラスされている。
ノンフィクションだけど、研究においても、人生の転機においても、まるで伏線のように「あの時のあれがこれにつながってる!」というシーンがあちこちにちりばめられていて、さながら推理小説のようにも思えて読み進める手が止まらなかった。
どう考えてもアフリカでの生活は生易しいものではなかったと思うが、本人としては、次々と新たな仮説が湧き、それを試行錯誤しながら検証できる環境があるフィールドワークは楽しくて仕方がなかったんだろうな。
割に面白おかしくアフリカでの研究生活が描かれているが、その裏、異国の地で研究を続けることには、相当な不安や苦労もあっただろうことは想像に難くない。
特にポスドクにとって、研究を続けるための金銭的環境を整えることは文字通り死活問題だ。そんな彷徨えるポスドクたちにとって、京大の白眉プロジェクトは希望の光だった。御多分に漏れず、筆者もそのプロジェクトへ応募する。
そのプロジェクトの面接中、当時の京大総長から贈られた言葉が、誠に金言。
「過酷な環境で生活し、研究をすることは本当に困難なことだと思います。私は一人の人間として、あなたに感謝します。」
…鳥肌が立った。
京大総長という立場にありながら、なんと一人間として謙虚かつ、一生物として真摯であろうか。 むしろそういう人物だからこそ、京大総長たりえたのだろうか。
この本を通じて、きっと、誰もが人生で一度は自身に問う「夢を追うか・安定した収入を得るか」の問いに真っ向から挑んだ姿に、誰もが共感し、胸をすかれる思いがするのではと思う。
しかし、最近こうも思う。
一度夢を諦め(あるいは忘れ去り)、暮らしを成り立たせる道を選んだとしても、そのプロセスには、元々の志向性やこれまでの体験が様々な形で折り合わさってなされた決断なのだろう。
今が、昔描いた未来の自分の姿から離れていたとしても、そこにワクワクを見出せるかどうかは自分次第だし、そのヒントはきっと自らの過去に散らばっているような気がする。
お気に入り度
★★★★★
あらすじ
「大学院を出て、ポスドクとして研究室にいた頃は、安定した職もなく、常に不安に苛まれていました。博識でもなく、誇れるような実績もない。友達と楽しく飲んでいても、トイレにたったときに研究の手を止めた罪悪感に襲われる日々でした。なので、一発逆転を狙おうと」
日本ではスーパーで売っているタコの産地として知られるモーリタニア。バッタ研究者だった前野さんは、思い立って一路モーリタニアへ。このたび、かの地で経験した一部始終を記した『バッタを倒しにアフリカへ』を出版した。
本書は、現地の言葉(フランス語)もわからずに飛び込んだ前野さんの冒険の記録でもある。