四季の移ろいと恋心|小説『喋々喃々』
こんなあなたに
- 最後に恋をしたのって、いつだったっけ
- 下町の食べ歩きとか大好き
- 四季の移り変わりや、地元の昔からの風習を大事にしていく、丁寧な暮らしに憧れる
あらすじ
ちょうちょうなんなん(喋々喃々)=男女が楽しげに小声で語り合うさま。東京・谷中でアンティークきもの店を営む栞。ある日店に父親に似た声をした男性客が訪れる―少しずつふくらむ恋心や家族との葛藤が、季節の移ろいやおいしいものの描写を交え丁寧に描かれる。(Amazonより)
感想
私は食事の描写がとっても美味しそうな小説が大好きなのですが、
その中でも、小川糸さんは最も「美味しく」描く一人だと思います。
きっと、季節の食材と、誰かを想う心がその文章の「美味しさ」の秘訣でしょう。
料理を作る過程の描き方もとても素敵なのですが、
そちらは『食堂かたつむり』のほうでいずれ紹介するとして、
『喋々喃々』は、主人公の住む谷中・根津・浅草近辺の
実在のお店のお料理がたくさん出てきます。
私もそのあたりを生活圏にしていたことがあって、町の雰囲気が好きでした。
なんだか、住んでいる人たちの、町に対する愛情がじんわり伝わってくるんですよね。
その雰囲気がじんわり文章からにじみ出ています。
そしてもう一つ、何度もこの小説を読み返してしまう理由は、
ほのかな恋の芽吹きから、坂道を転がる雪だるまのような歯止めの利かなくなる情熱まで、人を好きになるということが情感豊かにいたるところにちりばめられているところです。
自分と相手の幸せを願うことで、必ず誰かを傷つけてしまう道ならぬ恋であり、
その葛藤ゆえに、栞の目を通して描かれる四季の移ろいは一層深く突き刺さります。
感想キーワード
-
切ない
-
温かい
- 美味しそう
こちらもおすすめ
お気に入り度
★★★★★