そこにはハワイがつまってる|小説「まぼろしハワイ」
あれだけ蒸し暑くてイライラしてたのに、その気配が過ぎ去ろうとするとなんだか名残惜しくなる、夏。
なんだかその夏らしさを留めておきたくてたまたま目に留まった「まぼろしハワイ」。
タイトルどおり、本当に、あのハワイ独特のゆったりした感じや、風や海や木々が何かキラキラしたものを孕んでいる感じや、笑顔で全てを包み込んで許してくれる感じが濃縮還元されているような小説で、まさに読むだけでじっくりハワイに浸れるような小説だった。
3つの中編からなっているのだが、いちばん好きなのは、この本のタイトルにもなっている1つ目の話「まぼろしハワイ」。
特に、まるで世界そのもの、ダンスそのものに愛されているかのようなダンサーあざみさんの、まるで大輪の花が舞っているかのような、空気そのものが彼女を祝福しているかのような描写がとても美しかった。
3作全て、片親もしくは両親が幼い頃に居なくなってしまい、少し歪な家族関係を築いてきた20代の男女が、ハワイをきっかけに癒されていくもので、なんとなく印象が似通ってしまっているのが少し残念。あるいは、私の器がそれぞれの作品を味わい尽くせるまで熟していないのかもしれない。
ただ、何か大きなものを失ったときに読むと、きっと少し、おおらかなハワイが、そして世界が悲しみを少しだけ受け止めて、前に進む勇気をくれる気がする。