google-site-verification: google6166a85729186420.html

ゆる読。

気が向いたときに小説やらの感想を残すブログ。ほっこり系、ミステリが主。

世界に宿る命との会話|小説『ミ・ト・ン』

舞台は、ラトビア共和国をモデルにした架空の国、ルップマイゼ共和国。

ルップマイゼ共和国の人々は、クリスマスツリーに使うための木を切り倒すときには必ず木の神様にお祈りをする。

家族皆が大好きな黒パンのレシピは、杵とともに母から子へ受け継がれ、百年、千年変わらない味が受け継がれている。

厳しい寒さを乗り越えるために欠かせないミトンには、その色や模様に託した想いや願い事とともに誰かに渡す習わしがある。

生活の中に、自然・生命への感謝や畏怖がしっかりと根付いている様子がそこここにちりばめられている。
そんなルップマイゼ共和国に暮らすマリカ達の目に映る森や湖は、とても清々しく、凛としていて、優しく輝いている。

物語は、マリカの生まれるその日から、マリカがおばあさんになるまでの一生が描かれる。
男の子顔負けのおてんばで、外で思い切り遊びまわることが楽しくて仕方がなかった幼少期、
初恋の人ができたことで、苦手だったミトン編みにも喜びを見出した少女期、
子供には恵まれなかったものの、四季折々、つつましくもお互いにいつくしみあう結婚生活、
夫が徴兵されたのちも、深い悲しみに引きずられすぎず、丁寧に暮らしを営む壮年期、
ミトン編みの名人として、周囲の人々へ幸せを分け合う老年期。

 

最も印象的なのは、ある冬に夫が「氷の帝国」へ出向いて行ってしまってからのちのマリカの描写。
最愛の夫が戦争へ出向き、深い寂しさ、悲しさ、絶望、怒りが湧いているはずなのに、
そこで描かれるマリカは、淡々とだけど丁寧に日々を暮らし続ける。
泣きわめいたり、食事がのどを通らなかったり、眠ることができなかったり、そんな姿は描かれない。

描かれないからこそ、余計にマリカの秘めた悲しみが、まるで音はしないのに振動が伝播するかのように響き伝わってくる気がした。

 

 

だけどそんな丁寧な暮らしをし続けているある日、マリカは心から愛する夫の存在を、空気や水、森、周りを取り囲むいきもの全ての中に見出す。自分が生きていること、本当に愛する人と出会えたこと、豊かな世界に囲まれていること全てが素晴らしいと思えるシーンでめちゃくちゃ泣いた。

 

 

 

ルップマイゼ共和国の森や湖の、キラキラして、ふわふわした描写と相まって、
表面からは見えないけど、深い深いところでじんわりと、ただし確かに感じられる温かさがいつまでも残る。小川糸さんの作品の中でも、とびきりの愛と自然への感謝の気持ちが詰まった作品。

 

 

あらすじ

マリカは外で遊ぶことが大好きな女の子。
代々受け継がれる糸紡ぎや手袋を編むのが大の苦手。
そんな彼女に、気になる男の子が現れて。
この国では「好き」という気持ちやプロポーズの返事を、手袋の色や模様で伝えます。
おばあさんに手ほどきを受け、想いを込めて編んでいきます。

ミ・ト・ン (幻冬舎文庫)

ミ・ト・ン (幻冬舎文庫)

  • 作者:小川 糸
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 文庫