一人だから、つながりたくなる|『ぶらんこ乗り』
あらすじ
ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。――天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて……。物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。(Amazonより)
感想
いしいしんじさんの小説は、
「大人の童話」という表現がしっくりきます。
現実とファンタジーをぶらんこのようにいったり来たり。
全体的に夢の続きのような、ふわふわとした優しい読み口なんだけれど、
突然、自分ではどうにもならない、だけど受け入れなければならない
人生のリアルを突き付けられる感じ。
だけど、暗い闇にも、温かい、ささやかな光が見えるような。
『ぶらんこ乗り』は、
ぶらんこと指パッチンがとても上手な男の子と、その姉が中心の物語です。
男の子は、お話を書くこともとても上手でした。
いわゆる、「なんでもできる子」であるだけでなく、
その賢さゆえに、常に孤独を抱えていました。
男の子の生みだすお話には、彼の孤独や希望、優しさ、不安が随所に現れていて、
なんてことのないお話のはずなのに、その男の子の心の震えが
本を持つ手にも伝わってくるようです。
物語の終盤における男の子の行動、そしてたびたび繰り返されるぶらんこ乗りのお話の意味に、ただただ心が打たれます。
人生の中で何度も読み返して、
少しずつくみ取れるものを増やしていきたいと思う、
そんな本です。
感想キーワード
- 切ない
- 希望
- 優しさ
お気に入り度
★★★★☆