魍魎とは境界なのだよ|小説『魍魎の匣』
昨年に続き、自分の中で夏季休暇の恒例となりつつある京極夏彦「百鬼夜行」シリーズ第2弾。
この厚み。
一般的な単行本3〜4冊分はあるであろうこのボリューム感だけど、冒頭1ページから最後のページまでほんとにずっと面白い。
信者から「汚れた金銭を浄化する」という名目で金を巻き上げているという霊能力者、四肢が箱に入れられて遺棄されたバラバラ事件、美しい少女達の逃避行と殺人未遂(?)事件、不老不死を研究する天才科学者…
ひとつひとつが濃ゆい話が、同時に絡み合いながら圧倒的な展開を見せていく。
それぞれの事件に<ハコ>が印象的な形で登場するが、なんといっても冒頭数ページで登場する、膝にのるくらいの匣にぴったりと収まった(?!)美しい少女が「ほう」と呟く場面。
「ほう」っていうのがまた、消えゆく命の灯火の最後の息吹のようで、儚いのになにかとても濃密で官能的な感じがした。
こんな描写を冒頭からガツンとくらわせられたらひとたまりもなく、すっかりとそのハコに魅入られたら最後、読者は妖しくて恐ろしくて美しい物語に一気に引き込まれてしまう。
複雑に絡み合ったそれぞれの事件を、古本屋であり神主であり陰陽師である京極堂が鮮やかに「憑物落とし」を決めて、それぞれの謎を解き明かしていく。
広げた大風呂敷をしっかり回収してくれるので、ストーリー展開はわかりやすい。
各々の形でハコに魅入られ、のめり込んでいってしまった者達は、結果としてさまざまな事件を巻き起こしてしまった。そしてその事件ののち、不幸に陥る者もいれば、本人にとってはこの上ない幸福な状態を手に入れた者もいる。
そしてそんな、何かに「魅入られて」しまい、通常では考えられないこと-例えば殺人-を起こしてしまうのは、【偶々】それを起こしてしまうことのできる【環境】が揃ってしまったからであり、誰にでも起こりうることなのだと京極堂は語る。
そんなバカな。
と思う反面、
美しい少女がみっしり詰まった匣を持った男を想像して、
私は、
酷く羨ましくなってしまった。