初見殺しの高い壁を乗り越えたらもう止まらない|小説『姑獲鳥の夏』
面妖な表紙デザインと凶器にもなり得るその風貌(厚さ)から、一度見たらまず忘れない『姑獲鳥の夏』。
長年、長期休みになったらやりたいことランキング上位に食い込んでいた本作品読破だが、遂に成し遂げることができた。
物語は、物書きの関口がとある病院での奇怪な噂を耳にし、友人である古本屋(神主やら陰陽師やら、なんやかんや色々な顔がある)の京極堂に意見伺いに行くところから始まる。
しかし、読みはじめて数ページ、はやくも初見者に殴りかかってくるような、京極堂による難解な講釈-心理学、哲学、神経科学、民俗学など、最早ジャンル分けすら困難な程難解な-が延々と続く。
彼はその計り知れないほどの博識さと人心掌握術で、世界について本当に認知することなど出来ないのだ、と様々な角度から突きつける。
そう、今自分が見えている、触れている、聞いている、認識している世界は、すべて自分の脳というフィルタを通して”再現”されたものだからだ。
この講釈あたり、私は割と文章を読むことには慣れてる方だと自負していたが、なかなか理解できず挫折しかけた。
なんとなく京極堂が言いたいことを掴んでおけばまーいっかの開き直りが肝要。
しかし、そこを乗り越えれば後は止まらない。急激な坂を転がり落ちるように読み進める手が止まらない。
妊娠20週の妊婦、蛙の顔をした赤ん坊、失踪した父親の行方、人の記憶が見える探偵、産婦人科病院での不可解な嬰児死亡事件、などなど、全部回収しきれるのか心配な程てんこ盛りの謎たちが、京極堂によって祓われる。
あの長い長い講釈も、すべてはこの謎解きのために必要な知識であり、世界観なのだ。
-この世には不思議なことなど何もないのだよ—
あらすじ
この世には不思議なことなど何もないのだよ――古本屋にして陰陽師(おんみょうじ)が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第1弾。東京・雑司ヶ谷(ぞうしがや)の医院に奇怪な噂が流れる。娘は20箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津(えのきづ)らの推理を超え噂は意外な結末へ…
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★★★★☆