生まれ変わっても追いかけ続ける様は軽くホラー|小説『月の満ち欠け』
本屋の平積みコーナーで、「珍しく岩波文庫が…?」と装丁に目が止まると、そこには「岩波文庫的」という表記。
なんだこれはとおもいつつ、まんまと気になって購入してしまった。
率直な読後感としては、純愛物語という触れ込みだった気がするがちょっとした怪談話のようだった。
これだけ執拗に何度も生まれ変わって会おうとしている瑠璃の目的が「とにかく会いたい」「ヤリたい」って気持ちばかり主張されているのもなんだか気持ちが悪かった(いやヤリたいは口に出しているわけではないけど)。愛情というより単なる執着では。
そこまでして会いたいのなら、なんかもっとこう、それだけの伝えたいこととか、相手を何かの危機から守りたいとか、の理由とかないのかとか、そこまで愛しているなら相手の幸せをまずは考えろよ…。。そしてお前のその執着でどんだけの人不幸にしてんだよ。。とかとかいろいろ考えてしまい、最終的にはシンプルにストーカーでは…?と思ってしまった。
さらに言えば、なんで初代瑠璃と三角がそこまで惹かれあったのかもよくわからん…。
生まれ変わりミステリを書きたい、って部分が先にあって、それ以外の部分はそれを成り立たせるために要素を配置しただけのように感じられてしまい、いまいち感情移入もなく、トリックというか構成も初期段階に概ね想定できる通りだったので、大きな驚きもなく終わってしまった。
だけど瑠璃が気に入っていたという与謝野晶子の短歌の珊瑚の雨と碧瑠璃の雨、という表現がとても素敵だった。
この短歌を口ずさむ感性だけは、申し訳ないが唯一の瑠璃の好きなところ。
みづからは 半人半馬 降るものは
珊瑚の雨と 碧瑠璃の雨